正常化のご相談
リスケジュールをお願いすると、多くの場合では新規融資を受ける事ができません。 その代わり多くの場合、金利だけの支払いで元金の返済を半年から1年間ぐらい棚上げにしてくれます。 それを何度か更新している間に、業績が回復しリスケジュール前の売上と利益を確保できるようになりますと、正常化できるのではないかと思われる経営者の方がいますが、実際には出来ないケースが殆どです。
一体、正常化とはどう言う状態を指すのでしょうか?
金融機関によっても考え方は違うと思います。
しかしながら、一般的に言えば普通に融資を受けられるようになると言う事ではないでしょうか?
ですから、返済額が元に戻せても新規融資が受けられないのであれば正常化とは言えませんし、逆に返済額は元に戻らなくても新規融資が受けられるのであれば、正常化と言っても良いと思います。
更に条件を付けるとすれば、借入のある金融機関の全てに対して返済の自由を認められている状態である事も正常化の一つの条件と言えるでしょう。
正常化を認めていない金融機関は、他行の返済額を上げたり一括返済すると怒ります。 自行分も一括返済するように言われます。 何故ならば彼らに取ってはリスケジュール中であり、他行と足並みを揃えて返済すべきと考えているからです。 いわゆる偏頗弁済は認められないと言うリスケジュール中の考え方です。 これでお解りだと思いますが、正常化とは新規融資が受けられる事と返済の自由を認められている状態の事を言います。
中小企業が経常運転資金以上の金額を借りずにリスケジュールするのであれば、業績が戻れば比較的早く正常化できるかも知れません。
しかしながら、実際にはもっと多くの金額を支援してもらっている場合が殆どです。 つまりリスケジュールする前から、借りないと返済できない状態にあったのです。 言い換えると返済するための資金を借りていたし、貸してくれていたのです。 ですから、リスケジュール前の業績に戻っても返済のための融資が出なければ返済できないのです。
金融機関の考え方は、返済額を戻しても元々は契約違反をした訳ですから、直ぐには貸してくれません。 早くても半年間、遅ければ2年ぐらいは自力返済をしないと新規融資には応じてくれません。 リスケジュールに至る経緯やリスケジュール中の報告等に誠意が見られない場合やBSに問題が発生した場合等は、中々新規融資に応じてくれません。 つまり返済額を元に戻しただけでは融資は受けられず、一定の返済実績を求められるので正常化が難しいのです。
正常化するには、リスケジュール中の経営姿勢を良く考える必要があります。 折角、リスケジュール中で元金の返済が棚上げになっていると言う事は、無借金状態に近いと言えます。 無借金なら資金が回るような経営スタイルに変えなければリスケジュールから抜出す事はできません。 規模にもよりますが、多くは売上を上げようとして資金が足らなくなり、カードローンやノンバンクやリースバックやファクタリング等、あらゆる手を使って高金利で資金を調達してしまいます。 まずは、売上を上げるのではなく現状の売上で黒字にする事と借入をしなくて資金が回るように商売の仕方を変える事が最優先です。 これは生き残るために大変重要な事です。
仕入れがあるとどうしても資金が回らない業界であるならば、仕入れを辞めてでも生き残るぐらいの覚悟が必要です。 このように申し上げますと「仕入れを辞めてどうやって商売をするんだ。」と怒る方がいらっしゃいますが、逆に「リスケジュールをして仕入れ資金を貸してもらえない中でどうやって仕入れるのか?」と聞きたいです。 勿論、資金調達の方法が無い訳ではありません。 しかしながら、今までと同じ経営手法で行うのであれば、新たに借り入れても返せなくなってしまう事は明白です。 極論を言えば、仕入れを止めて同じ業界のコンサルティング事業に切り替えて、借入が必要ない前金にしたり、営業に特化し営業代行で稼ぐなどの思い切った事も検討すべきでしょう。
そこまで出来ないのであれば、仕入れの支払い条件を売上入金後にしてもらえるよう交渉するか、その条件で取引してくれる新たな仕入れ先を開拓するかです。 何れにしても、まずは資金が回るようにしなければなりません。 それを、さらに加速してキャッシュフローを蓄え、元金の一部を返済できるようにならなければ正常化は難しいと言えます。
正常化ができる目途は、借入金の全てを10年~15年以内に完済できるペースで元金を返済できるようになれば十分可能性があります。 ここまでくれば新たな借り入れを行わずに、一定の元金を返済できるようになっている訳ですから、かなり財務改善が進んでいると言えますので、十分正常化できる範疇にあります。 但し、ここまで来ても金融機関には協力的な処と非協力的な処がありますので、簡単には行きません。 ここからは、戦略と交渉術がものを言います。 専門家のサポートを受けながら正常化する事をお勧めします。
リスケジュールを各金融機関にお願いするに当たって、経営改善計画を提出するのとしないのでは、正常化にも大きな影響を与えます。 何故ならば、このような計画で事業を立て直し、2年後には元金の返済を始めます等の情報を金融機関に対して宣言する事になりますので、金融機関側も返済するために努力する事が伝わるからです。
このケースでは、全ての金融機関へ経営改善計画を提出しましたが、それでも単純に業績が回復しただけでは正常化は出来ませんでした。
正常化のポイントは、提出した経営改善書の業績を上回ることですが、最低でも80%は達成する必要があります。 ここに経営改善書を出す意味があります。
つまり売上が完全に回復しなくとも、経費節減等で利益をだす事で計画を達成すれば評価される事になりますので、それだけ正常化が早くなります。
但し、今回のケースは元の売上である10億円まで回復しても、完全なる正常化はできませんでした。 何故ならば、元々売上10億円と経常利益3000万円に対して6億円の借入が重すぎるからです。 それでもリスケ前なら短期なら1000万円から2000万円程度なら貸してくれる金融機関がありました。 しかしながら、一度リスケをしてしまうと業績が同じ所まで回復しても貸してくれる金融機関はありません。 何故なら、業績が回復しても元の返済額に戻せないからです。
6億円を5年で返済するには年間1.2億円、毎月1000万円の返済が必要になるわけで、とても経常利益3000万円では返済できません。 つまり、正常時には折り返し融資がありましたので、足りない分は借りながら返済していたわけで、リスケから正常時の返済額に戻して最低半年間の返済実績を積んでから正常化では、過去の正常時より遥かに業績が上がらないと正常化できない事になっているのです。 現実に年商12億円と過去最高売上を記録し、経常利益もリストラ効果で8000万円を達成しましたが、それでも6億円を返済するには十分と言えません。 経常利益8000万円から税金を引けば約5600万円しか残らないからです。 このような時、どのようにして正常化するかと言いますとケースバイケースなのですが、この場合には、6億円を元の5年返済で考える事は無理がありますので10年返済に引き直した上で、正常化交渉を行うしかありません。
各行に10年返済の案をプレゼンし、これで正常化を打診しましたが、リスケ中より返済ピッチが早くなる事には賛同するも、新たな融資を検討できる正常化には後ろ向きでした。 それで元々、日本政策金融公庫や信用保証協会は、商売ではなく零細中小企業の育成を目的にしておりますので、まずは日本政策金融公庫から本格的交渉を始めました。 日本政策金融公庫は、運転資金の最長は制度上8年となっており、10年は認められないとの事でした。 しかしながら、8年では他行も8年となり返済ができなくなる恐れがある事を説明した結果、足りない2年分は新規融資と言うことで他行とのバランスを取らせてもらいますとの提案がありました。 これを皮切りに商工中金も8年と新規融資と政府系金融機関が先導してくれました。
これらの実績を元に、民間金融機関と交渉し、現実的な支払額にした上でテールヘビー型の10年に組み替えて頂きました。 テールヘビーとは、実際には5年返済であるが月々の返済を10年返済と同額にして、最終月に残高を一括返済すると言う手法です。 本来は、テールヘビーにしない方が良いのですが、ある程度のキャッシュフローを残して擬似正常化するためには、仕方がありません。 この状態までくれば、一応協力的な金融機関や新規の金融機関から融資を受ける事ができるようになります。 まず考えるべきは、業績が回復し資金が回っている現状で、これ以上借入残を増やさずに、いつでも借りられる正常な状態に持って行く事が重要になります。 まずは、協力的な金融機関から、非協力的な金融機関の保証付き融資の返済資金を借入れました。 つまり8000万円借りて、他行の信用保証協会付き融資を一括返済すれば、全体の借入残は同じまま信用保証協会の保証枠が空く事になります。 勿論、全て金融機関と合意の上です。
但し、他の一括返済しなかった非協力的な金融機関から、他行へ一括返済するのであれば、弊行にも一括返済すべきとのクレームは入りましたが、リスケ条件の更新期間の違いや残高の違い等を丁寧に説明すると同時に、正常化した事は了承済みのはずで、返済の自由があることを理解してもらいました。 実務で起きた事を全て書く事はできませんが、実際には色々な事が起きており、小さな事でも対応を間違えると正反対の結果になることも有り得ます。
さて、次にこの保証協会の空きを使って新規行の開拓を行います。 例えば、信用保証協会1000万円とプロパー1000万円ぐらいで、2行を開発します。 初めて取引する場合には、やはり保証協会の枠があるとスムーズに行きます。 これらの新たな4000万円の借入で、やはり協力的でなかった他行のプロパー等を返済して融資残高を増やさないようにしておきます。 ここまで来て、逐一状況を取引金融機関へ報告しますと、かなり態度が変わってきます。 つまり、新たな金融機関にお客を取られるかも知れない事と非協力金融機関に一括返済できる力がある事を見せることで、静かなプレッシャーが効いてくるからです。 そうなると、テールヘビーを解消して、月々の返済額を上げる代わりに、その増えた返済分を融資するなど、色々な提案が出てきます。 ここまで、くれば正に正常化の完成です。