106.引退する社長は現預金ごと会社を売るのは何故?
2020年10月10日
M&AのFA(ファイナンシャルアドバイザー)を務めていると、色々なケースに出会います。
買収先の価値は2億円程の会社なのですが、売値は12億円なので融資が引けないと言う相談がありました。
何故、そんなに高いのかと言いますと過去に事業譲渡した販売部門の代金の残りが10億円ぐらい現預金として残っていたからでした。
買収側の社長も M&Aは初めての事で、10億円もの現預金を残したまま会社を売ろうとする先方の社長の意図が解らず、現金は必要ありませんので会社だけ2億円で売って頂けませんかと聞いて断られたとの事でした。
それで、何故引退する社長が会社に多額の現預金を残したまま売りたがるのか説明しました。
それは、会社から10億円もの現預金を社長個人へ移管させるには、役員報酬か配当かと言うことになり、何れにしても約半分の5億円は税金で取られてしまうからです。
細かく言えば優遇税制(約半分の税率)である退職金で1億円から3億円程度は処理できるケースであれば、もう少し税金は安くなりますが、基本的には株式譲渡による課税の約20%が一番安いと言えます。
つまり売る側から言えば、現預金分を上乗せした価格で株式として売れば税率は20%で済みますので、現預金の10億円分に対して2億円の税金で8億円が手取りになるからです。
つまり現預金が多い会社の社長が引退する時には、現預金分を上乗せして会社を売りたがるのは、そのような税制の有利性があるからなのです。
しかしながら、買収側は2億円で買える会社に対して12億円の融資を受けなければ買えませんのでハードルが高くなる事と金利負担が10億円分増えてしまいます。
年利2%としても年間2000万円の金利負担が増えますので、利益から返済できるかどうか検討が必要になります。
買収側の手としましては、買収後借換えて10億円を返済してしまう手はあります。
しかしながら、買収時には12億円を準備しなければならないと言う高いハードルはあります。
このような買収は、いわゆるM&A仲介業の仲介機能しかない会社にFAを頼んでしまいますと資金調達が出来ずに断念するか、資金調達は別の専門家に頼むしかなくなるでしょう。
このような買収は、資金調達力とコンサルティング能力と仲介機能を持ったFAに依頼するのがベストです。